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ボーダーコリーはなぜ賢い?牧羊犬の仕事と科学研究からわかること

執筆者の写真: s3hkry
s3hkry
3 日前
読了時間: 10分

更新日:17 時間前



ボーダーコリーは「犬の中でも特に賢い」とよく紹介される犬種です。

名前を聞き分けたり、飼い主の合図に素早く反応したりする姿を見て、その知能の高さが気になった人も多いのではないでしょうか。


結論からいうと、ボーダーコリーが賢いと言われる背景には、牧羊犬として人と協力してきた歴史や、注意深さ・学習への適応力があります。

また、物の名前を多数覚えた特別な個体についての科学研究もあります。

ただし、「ボーダーコリーならどの犬も天才」「犬種として世界一の知能が科学的に証明された」という意味ではありません。

牧羊犬としての作業能力と、犬の認知能力の研究結果を分けながら見ていきましょう。


牧場で羊の群れを見守るボーダーコリーのイメージ

まず結論|「賢い」と言われる3つの背景


ボーダーコリーの特徴を考えるとき、押さえておきたいのは次の3点です。

  1. 群れの動きに注意を向け、人と協力する仕事をしてきたこと。

  2. 人からの合図を学び、状況に応じて行動することが求められてきたこと。

  3. 物の名前を多数覚えるなど、例外的な能力を示した個体の研究例があること。

一方、犬種標準は「その犬種に求められる特徴」を記したもので、犬の知能を測定した成績表ではありません。

研究の結果も、何頭を対象に、どのような課題を調べたかによって意味が変わります。



理由①|牧羊犬として、人の合図と群れの動きを見て働いてきた


ボーダーコリーはイギリス原産の牧羊犬


ジャパンケネルクラブ(JKC)の犬種標準では、ボーダー・コリーの原産国はイギリス、用途は「牧羊犬」とされています。

犬種名の「ボーダー」は、イングランドとスコットランドの国境地帯に由来するものです。

JKCは、この犬種が長く作業能力を重視されてきた歴史を紹介しています。

また、JKCの犬種標準では、性格の特徴として「鋭敏」「注意深い」「聡明」などが挙げられています。


牧羊の仕事には、複数の情報を扱う力が必要


牧羊犬の仕事は、ただ人の「おすわり」という指示に従うこととは違います。

例えば羊を誘導する場面では、犬は次のようなことを組み合わせて行動します。

  • 群れを見る: 羊がどちらへ動いているか、集団から離れた羊がいないかに注意を向ける。

  • 人の合図を受け取る: ハンドラー(犬に指示を出す人)の声や合図に応じる。

  • 動きを調整する: 羊との距離や位置を変え、群れを必要な方向へ導く。

ここで発揮されるのは、単なる暗記力だけではありません。

周囲への注意、人との連携、状況に応じた行動が一つの仕事の中で求められます。

もちろん、これらの能力がすべてのボーダーコリーに同じ程度備わっているわけではありません。実際の牧羊には専門的な訓練と経験も必要です。


牧羊犬に求められる群れの観察・人の合図への対応・位置の調整を示した図解

理由②|物の名前を覚えた、特別なボーダーコリーがいる


ボーダーコリーの知能が世界的に注目される理由の一つが、物の名前を学ぶ能力を調べた研究です。

ここでは、よく知られる2頭の研究例を紹介します。


Rico:200種類を超える物の名前を区別した研究(2004年)

2004年、科学誌『Science』に、ボーダーコリーのRico(リコ)についての研究が発表されました。

Ricoは200種類を超える物の名前を知っており、名前を聞いて対応する物を持ってくることができました。

研究では、すでに名前を知っている物と未知の物を並べ、新しい名前を聞いたときに、まだ名前のない物を選ぶ行動も確認されました。

さらに、その対応を4週間後にも確認しています。

この結果は、犬が学習と記憶を使って、未知の言葉と物を結び付けられる可能性を示しています。

ただし、Ricoは研究対象となった特別な1頭です。

この結果だけで、すべてのボーダーコリーが200語以上を覚えるとは言えません。


Chaser:1,022個の物の名前を学習した研究(2011年)


2011年には、ボーダーコリーのChaser(チェイサー)を対象とした研究が『Behavioural Processes』に掲載されました。

研究によると、Chaserは3年間の集中的な訓練を通じて、1,022個の物それぞれの名前を学び、保持していました。

さらに研究では、物を表す名前と「取ってくる」などの行動の指示を区別できるかも調べられました。

「名前を聞いたら特定の動きをする」だけでなく、物の名前と行動の指示を分けて理解しているか、という点が研究上の重要なテーマでした。

ただし、これは長期間の訓練を受けた1頭についての研究です。


ボーダーコリー全体の平均的な語彙力を測った結果ではありません。


「犬ならみんな、たくさんの物の名前を覚えられる」のか?


2021年の別の研究では、最初から多数の玩具の名前を知っていた6頭と、そのような経験のない家庭犬34頭に、新しい玩具の名前を学ぶ課題を与えました。

3か月の検証で、名前をすでに複数知っていた6頭は全頭が課題に成功した一方、経験のない34頭で成功したのは1頭でした。

この研究は、物の名前を特に得意とする犬が少数存在し、その能力には大きな個体差があることを示しています。

なお、これはボーダーコリーと他犬種の知能順位を決めるための研究ではありません。



理由③|68頭のボーダーコリーを調べた認知研究もある


2016年、ArdenとAdamsは、ウェールズの農場で暮らす68頭のボーダーコリーを対象に、複数の認知課題を調べました。

具体的には、障害物を回り込んで目的の場所へ向かう「迂回課題」、人の指差しを手がかりにする課題、数量を区別する課題などが使われています。

研究では、ある課題を速く解いた犬が、ほかの課題でも比較的よい成績を示す傾向が確認されました。

これは、犬の認知課題に共通する能力が存在する可能性を考える材料になります。

しかし、重要な注意点があります。

この研究の対象は68頭すべてがボーダーコリーです。

つまり、「ボーダーコリーと柴犬を比べた」「全犬種の中で最も高得点だった」という研究ではありません。

また、限られた課題の結果から、その犬のすべての能力や性格を判断することもできません。



科学研究をまとめると、何が分かる?


研究

対象

調べたこと

注意したい限界

2004年・Rico

ボーダーコリー1頭

200種類を超える物の名前、新しい名前の推測

特別な個体の研究

2011年・Chaser

ボーダーコリー1頭

1,022個の物の名前、名前と指示の区別

3年間の集中的な訓練を受けた

2016年・Ardenら

ボーダーコリー68頭

迂回・指差し・数量などの認知課題

他犬種と順位を比較していない

2021年・学習研究

既知の名前がある6頭と家庭犬34頭

新しい玩具の名前の学習

犬種別の知能ランキングではない

これらの研究から分かるのは、犬には高度な学習能力を示す個体がいること、そして同じ犬種の中でも認知能力に違いがあるということです。

「ボーダーコリーはなぜ賢いのか」という疑問には、牧羊犬としての背景を説明できます。

しかし、特定の研究結果を犬種全体へそのまま当てはめるのは正確ではありません。


Rico・Chaser・ボーダーコリー68頭の認知研究を対象数と結果から比較した図解

「世界一賢い犬」という言葉を、そのまま信じていい?


ボーダーコリーは犬の知能ランキングで1位として紹介されることがあります。

ただし、「賢さ」の意味が変われば、評価の仕方も変わります。

例えば、人の指示を覚える速さ、知らない課題を解く力、においを使う力、人と協力する力は、それぞれ異なる能力です。

ある仕事に適した犬が、別の仕事でも必ず一番優れているとは限りません。

また、指示をよく覚える犬が、何もしなくても暮らしやすい犬になるわけではありません。

犬種名や順位だけで判断せず、実際の犬が何を得意とし、何に困っているのかを見ることが大切です。



ボーダーコリーとの暮らしで意識したい3つのこと


ボーダーコリーの特徴を家庭で考えるときは、「できるだけ疲れさせること」だけを目標にしない方がよいでしょう。


1. 短い練習を楽しい経験にする


「おすわり」「待つ」「呼んだら戻る」など、日常生活で役立つ合図を一貫して教えます。

できたらおやつや遊びなど、その犬が喜ぶ方法で伝えましょう。練習の長さや難しさは、犬の年齢や様子に合わせます。

米国獣医行動学会(AVSAB)は、犬のトレーニングについて報酬に基づく方法を推奨しています。

賢い犬だからといって、強い叱責や痛みを使う必要はありません。


2. 体を動かすだけでなく、考える遊びも用意する


散歩や遊びに加え、おやつを探す遊び、名前を付けたおもちゃを選ぶ遊びなども候補になります。

最初は簡単な課題から始め、できないときは難しさを下げましょう。小さな部品の誤飲や滑りやすい床にも注意してください。

ただし、Chaserの研究を目標にして何百種類もの名前を覚えさせる必要はありません。

愛犬が楽しめる範囲で十分です。


3. 落ち着いて休める時間と環境を大切にする


活動的な犬でも、休息は必要です。

遊びや練習に夢中になっていても、興奮が強くなってきたときは間を取り、静かに休める場所を用意しましょう。

追いかける行動が強い場合は、自転車や走行中の車などへ向かわないよう、安全な環境づくりも欠かせません。

行動に不安がある場合は、獣医師や適切な資格・経験を持つ行動の専門家に相談しましょう。



ボーダーコリーを迎える前に確認したいこと


「賢いから育てやすそう」と考えているなら、まずは暮らしとの相性を確かめましょう。

  • 毎日の散歩、遊び、練習、休息の時間を確保できるか

  • 犬が落ち着ける居場所を用意できるか

  • 活発な犬を安全に管理できる環境か

  • 困ったときに相談できる獣医師や専門家がいるか

  • 犬種のイメージではなく、その犬自身の性格や状態を見られるか

必要な運動量や得意なことは、年齢、健康状態、育った環境、個体差によって変わります。

長時間の運動を一律に課すのではなく、その犬に合う生活を考えましょう。



よくある質問


ボーダーコリーは本当に世界一賢い犬ですか?

「賢い犬」として高く評価されていますが、研究によって「賢さ」の測り方は異なります。

あらゆる能力で全犬種の1位と証明されているわけではありません。


ボーダーコリーは1,000語以上覚えられるのですか?

Chaserという個体が1,022個の物の名前を学んだ研究があります。

ただし、3年間の集中的な訓練を受けた特別な1頭の例であり、ほかのボーダーコリーにも同じ結果が出るという意味ではありません。


ボーダーコリーは教えなくても指示を理解しますか?

いいえ。犬種として注意深さや学習への適応力が特徴とされていても、言葉や家庭でのルールは経験を通じて学びます。

分かりやすい合図と報酬を使い、無理のない練習を重ねることが大切です。


賢い犬ほど、いたずらや問題行動が多いのですか?

賢さだけで問題行動の多さは決まりません。

刺激、休息、環境、健康状態、学習経験などを合わせて考える必要があります。

急な行動の変化や強い不安が見られる場合は、犬種の性格と決めつけず専門家に相談してください。


初めて犬を飼う人には向いていませんか?

一律に向いていないとは言えません。

ただし、活動や学習の機会を用意し、必要な管理を継続できるかは重要です。

犬種の評判よりも、犬の個性と家庭の生活条件を確認しましょう。




まとめ|ボーダーコリーの賢さは「仕事」と「個体差」の両方から考える


ボーダーコリーが賢いと言われる背景には、牧羊犬として群れを観察し、人と協力してきた歴史があります。

また、RicoやChaserのように多くの物の名前を学んだ個体や、68頭を対象に認知課題の個体差を調べた研究もあります。

一方、それらは「すべてのボーダーコリーが同じように賢い」「あらゆる面で世界一」という意味ではありません。

犬種の特徴を知ることは大切です。

そのうえで、目の前の一頭が何を楽しみ、どんなことを得意とするのかに目を向けると、犬との暮らしをより深く理解できるでしょう。



参考資料

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