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犬は人間の言葉を理解する?2024年の脳波研究で分かったこと

執筆者の写真: s3hkry
s3hkry
3 日前
読了時間: 10分

更新日:17 時間前

「お散歩に行く?」と言うと玄関へ向かう。「ボールはどこ?」と聞くと、おもちゃを探す。

犬と暮らしていると、こちらの言葉が伝わっているように感じる場面があります。

でも、犬は「散歩」という音のあとに起きる出来事を覚えているだけなのでしょうか。それとも、「ボール」という言葉を聞いて、その物を思い浮かべることもできるのでしょうか。


2024年に発表された脳波研究では、犬が聞き慣れた物の名前から、その物を予想している可能性を示す結果が得られました。

一方、犬が人間の文章や会話をすべて理解すると分かったわけではありません。

この記事では、実験の方法、分かったことと分からないこと、愛犬とのコミュニケーションに生かせる考え方を整理します。


青いボールと赤いおもちゃを前に飼い主を見つめる2頭の犬のイメージ



結論|犬は「音」だけでなく、物の名前と実物の関係も学べる可能性がある


犬は人間の言葉にいろいろな形で反応します。

ただし、言葉に反応することと、その言葉が指す物を理解することは、同じとは限りません。

例えば「散歩」という言葉で喜ぶ犬は、言葉の音と楽しい経験を結び付けているかもしれません。飼い主がリードを手に取る動作や、外出前の雰囲気に反応している場合も考えられます。

一方、「ボール」という言葉を聞いてボールという物を思い浮かべているなら、少し違った理解が起きていることになります。


2024年の研究が調べたのは、主にこの「物の名前と実物の対応」です。

犬の反応

そこから考えられること

それだけでは言えないこと

「散歩」で玄関へ行く

言葉や日常の流れを学んでいる可能性

人間と同じ意味で「散歩」を理解しているとは断定できない

「ボール」でおもちゃを見る

物の名前を聞き分けている可能性

声の調子や視線などの手がかりを使っていないとは限らない

名前を呼ぶと振り向く

自分に向けられた音や合図を学んでいる可能性

人間の文章全般を理解している証明にはならない



2024年の脳波研究では、どんな実験をした?


27頭が参加し、18頭分の脳波を解析


2024年、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のBoros(ボロシュ)らの研究チームは、『Current Biology』に犬の言葉の理解についての研究を発表しました。

実験には家庭で暮らす犬27頭が参加しましたが、機器の問題や体の動きによるノイズなどを除外した結果、最終的に18頭の脳波データが解析に使われました。

犬たちは、ボーダーコリーだけではなく複数の犬種やミックス犬を含んでいます。

研究への参加条件として、飼い主から見て少なくともいくつかの物の名前を知っている犬が選ばれました。

この研究で使ったのは、**EEG(脳波測定)**という方法です。

犬の頭に電極を付け、目が覚めた状態で、音や物に対する脳の電気的な反応を記録しました。

脳を手術する実験ではありません。


「ボール」と言ってボールを見せるか、違う物を見せるか


実験では、飼い主が普段から使うおもちゃの名前を犬に聞かせ、その後で実物を見せました。

組み合わせは、大きく分けて次の2種類です。

  • 一致する場合: 「ボール」と聞かせて、ボールを見せる。

  • 一致しない場合: 「ボール」と聞かせて、別のおもちゃを見せる。

ここで重要なのは、犬に「正しいおもちゃを持ってきて」と命じて成績を付けたのではないことです。

犬が自分から物を選ばなくても、言葉と物の組み合わせに対する脳の反応を比較したのです。

この方法なら、おもちゃを持ってくることが得意ではない犬についても、言葉から物を予想している可能性を調べられます。


犬にボールという言葉を聞かせて一致する物と異なる物を見せる実験の模式図


結果|名前と違う物を見たとき、脳波の反応が変わった


研究者は、名前と物が一致する場合と一致しない場合で、脳波に違いが出るかを調べました。

その結果、物を見せた後のおよそ206〜606ミリ秒の時間帯に、一致・不一致による反応の差が確認されました。

これは、人間の言語研究で知られる「N400」と呼ばれる反応に似た特徴を持っていました。


N400に似た反応とは?

人間の研究では、予想した言葉や意味と、実際に提示された情報が食い違うと、脳波に特徴的な変化が見られることがあります。

こうした意味の処理に関係する反応の一つがN400です。

今回の犬の研究でも、言葉と実物が食い違ったときに、意味の不一致を処理している可能性がある反応が観察されました。

ただし、これは犬の脳波が人間とまったく同じだった、という意味ではありません。


よく知っていると報告された言葉ほど、違いが大きかった

もう一つ重要なのは、飼い主が「この名前をよく知っている」と評価した物ほど、一致・不一致による脳波の差が大きくなる傾向があったことです。

この点も、単なる物の見た目への反応ではなく、言葉と物の対応が関係しているという解釈を支えています。

一方、飼い主が報告した物の名前の語彙数が多い犬だけに、このような意味の予測が見られたわけではありませんでした。

つまり、物の名前を非常にたくさん知る特別な犬だけに限らない可能性があります。



この研究で「分かったこと」と「まだ分からないこと」


脳波の結果は興味深いものですが、解釈の範囲を守ることが大切です。


研究から支持されること

  • 一部の家庭犬は、聞き慣れた物の名前と実物の対応について、脳内で予測している可能性がある。

  • 物の名前を聞かせた後、見せた物が一致するかどうかで脳波の反応に違いが生じた。

  • 飼い主がよく知っていると報告した名前ほど、脳波の違いが大きくなる傾向があった。


この研究だけでは証明されていないこと

  • 犬が人間の文章や文法を、私たちと同じように理解していること。

  • すべての犬が数百語・数千語を覚えられること。

  • 犬が飼い主の気持ちや意図を、言葉だけで正確に読み取れること。

  • 家庭で似た遊びをすれば、どの犬でも同じ脳波の結果が出ること。


解析対象は18頭で、飼い主が知っていると考えた物の名前を使った研究です。

犬の年齢、犬種、経験の違いや、名前以外の言語表現については、さらなる研究が必要です。


2024年の犬の脳波研究で分かった物の名前への反応と研究の限界を整理した図解


言葉の意味だけでなく「声の調子」も関係する?


犬とのコミュニケーションでは、何を言うかだけでなく、どういう声で言うかも気になります。

実は、2024年より前にも、犬が言葉と声の調子をどのように処理するかを調べた脳研究があります。

2016年に『Science』で発表されたAndicsらの研究では、犬の脳活動をfMRIで測定し、意味のある言葉と声の抑揚に関する情報を、犬の脳が区別して処理することを示す結果が報告されました。

また、ほめ言葉の内容と、ほめる調子の両方が合っているときに、報酬に関係する脳領域の活動が高まることも報告されています。

ここで気を付けたいのは、2016年と2024年の研究は同じ実験ではないという点です。

2016年の研究は言葉と抑揚の処理を、2024年の研究は物の名前と実物の対応を中心に調べています。

両方を合わせると、犬が人の声を単なる音として一様に聞いているのではなく、複数の手がかりを処理している可能性が見えてきます。



「散歩」「ごはん」「おもちゃ」への反応は、どう考える?


家庭で見られる反応には、いくつかの説明が考えられます。


「散歩」と言うと玄関へ向かう

毎日の習慣によって、犬が「散歩」という音の後に起きる出来事を学んでいる可能性があります。

同時に、飼い主が立ち上がる、靴を履く、リードを持つといった動きが手がかりになっていることもあります。


「ボール」と言うと、特定のおもちゃを見る

もし異なる物が複数ある中で、いつも同じ名前に反応するなら、名前と物の対応を学んでいる可能性があります。

ただし、その場で飼い主が指差したり視線を向けたりしている場合、犬は言葉以外のヒントを使っているかもしれません。


褒めると喜ぶ

言葉そのものだけでなく、声の高さや抑揚、表情、過去の経験などが関わっている可能性があります。

「うれしそうにしているから言葉の意味が全部分かっている」と一つの理由に決めつける必要はありません。



愛犬と楽しく言葉を使うための4つの工夫


研究を家庭で再現することは難しくても、普段のやり取りを分かりやすくする工夫はできます。


1. 同じ物には、なるべく同じ名前を使う

例えば一つのボールを「ボール」、一つのぬいぐるみを「くま」と呼ぶなど、簡単で一貫した名前を使います。

毎回違う呼び名にするより、犬がその音と物を結び付ける機会を作りやすくなります。


2. 選べたときは、楽しい経験につなげる

犬が指定したおもちゃに近づいたときは、遊んだり、ほめたりしてよい経験につなげましょう。

アメリカ獣医行動学会(AVSAB)は、犬の学習・トレーニングでは報酬を使う方法を推奨しています。


3. 飼い主の手や視線もヒントになると知っておく

犬が正しいおもちゃを選んでも、言葉だけを聞いて判断したとは限りません。

「いつも同じ場所に置いてある」「飼い主がその物を見ている」など、周囲の状況も影響します。

犬が何を手がかりにしているかを観察すること自体が、楽しい学びになります。


4. 正解を求めすぎず、犬の様子を優先する

犬がおもちゃを選ばなかったとしても、「言葉を理解できない犬」と決めつける必要はありません。

そのときの意欲、疲れ、体調、おもちゃへの興味など、さまざまな要因が考えられます。

無理に繰り返し試すのではなく、犬が楽しんでいる範囲でやり取りを続けましょう。

※これらは家庭でのコミュニケーションの工夫であり、2024年のEEG実験と同じ検査ができるという意味ではありません。



よくある質問


Q. 犬は何語まで覚えられますか?

すべての犬に当てはまる上限は分かっていません。

1,000個を超える物の名前を学んだボーダーコリーのChaserなど、特別な個体の研究はあります。ただし、犬全体の平均や標準的な語彙数を示すものではありません。

また、2024年の研究は語彙数の上限を測った研究ではありません。


Q. 犬は「大好きだよ」という言葉の意味も理解していますか?

2024年の研究が中心的に調べたのは、物の名前と実物の対応です。

愛情表現のような抽象的な言葉を、犬が人間と同じように理解するかは、この研究からは分かりません。

声の調子や日常の経験なども関係すると考えられます。


Q. 犬が名前を呼ばれて振り向くのも、言葉を理解している証拠ですか?

名前や呼びかけへの反応は、犬がその音を重要な合図として学んでいる可能性を示します。

ただし、それだけで物の名前の意味理解や、文章の理解まで証明できるわけではありません。


Q. ボーダーコリーだけが人間の言葉を理解するのですか?

いいえ。2024年の研究には、ボーダーコリー以外の犬種やミックス犬も含まれていました。

特定の犬種にしか物の名前を学ぶ能力がない、と示した研究ではありません。


Q. おもちゃを取ってこない犬は、言葉を理解していないのですか?

そうとは限りません。

おもちゃを持ってくる行動には、犬の興味や意欲、これまでの学習経験などが関わります。

2024年の研究も、持ってくる行動だけに頼らず、脳波を測定する方法を用いています。



まとめ|犬と人の言葉は、想像以上につながっているかもしれない


犬は人間の言葉に、音や習慣だけで反応しているとは限りません。

2024年の脳波研究は、犬が聞き慣れた物の名前から、その物を予想している可能性を示しました。

また、2016年の研究は、犬が言葉と声の調子に関する情報を区別して処理することを示しています。

一方で、人間と同じように会話を理解する能力が証明されたわけではありません。

愛犬の反応を一つの決まった理由で説明するのではなく、声や動作、周囲の状況、その犬の経験を合わせて見てみましょう。

毎日の何気ないやり取りの中にも、犬とのコミュニケーションを知る手がかりがあるはずです。


参考資料

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